Date: Mon, 2 Apr 2001 07:20:00 +0900 (JST)
From: mag2 ID 0000034616
Subject: バンコク日本人町からNo46
【タイをめぐる雑学の館】
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■□ バンコク日本人町から □■
◎第46号
--- 2001.4.2
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◆ タイの出来事 ◆
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■ タイラットな大事件
先々週から一つの事件がタイ中の注目を集めている。
その事件とは、名門チュラロンコン大学病院の医師による妻殺人事件。この事件、死体が見つかって発覚したものではない。最初は医師の妻失踪事件だった。しかし様々な状況証拠から警察は夫である医師が殺したものと断定。遺体の捜索に乗り出したが、本日(執筆日3月31日)これまでにまだ遺体は見つかっていない。警察は「被疑者である夫は医師である」ということから遺体は切断されたと推測、自宅と殺害現場と思われるソフィテルホテルの(トイレの)浄化槽を汲み出し、切り刻まれた肉片があることを洗い出した。いや本当にウンチ・オシッコに漬かった人間の肉片を洗っている写真が新聞・テレビに映しだされたのだ。
しかしこのお医者さん、よりによってトイレに流すなんて、証拠を残すようなものだということに気づかなかったのだろうか。
タイのトイレはほぼ全国的に浄化槽式である。今の若い人は知らないかもしれないが、日本でも筆者が子どもの頃、団地や小学校のトイレは浄化槽式だった。トイレの側は水洗なんだが、その先は下水道ではなく、大きな地下タンクに一時溜めておき、定期的にバキュームカーが汲み取りに来るという仕組みだ。タイでは一般家庭でもこの様式が取られている。どんな田舎に行ってもトイレが水洗なのはこういう仕組みなんだよ。一般家庭では3年に1回ぐらいしか汲み取りをしないでいいようになっている。だからトイレに流すなんて証拠を長く保存することになるのだ。
しかしこの熱帯の国で汚物の中に漬かって1ヶ月、よく分解しなかったこととそれを洗い出した鑑識官の努力に人々は感心しきりだ。
死体を切り刻んでトイレに流すという猟奇的な部分だけでもタイ人の関心を大いに引き寄せるこの事件、さらにタイの人たちが関心を寄せる周辺事情。ここからがタイ・マスコミの真骨頂だ!
まず殺人の動機に大いに関係あるとされるのが“愛人”の存在。愛人とされる女性はかつてこの医師の患者で不妊治療を受けていた。これがその愛人ですと、新聞の一面トップを飾った写真はある華僑ファミリーの記念写真だった。この女性、ある精米業者の夫人だった。精米業者というのは一種の財閥で、華僑。中国人というのは子宝、特に男子に恵まれることに異常な執着を示す民族で、この報道のおかげで我が一族は不能者だと言われたようなものだ!と怒ること。
怒っているのは華僑だけではない。
殺された妻も産婦人科医だった。彼女が勤めていた国鉄病院は優秀な医師を失い我が病院にとって大きな損失だと怒っている。
一方、チュラロンコン大学も黙っちゃいない。
夫のほうはアセアンで5指に入ると言われる不妊治療の権威で、この優秀な医学者を失うことはタイだけではなく、世界的な損失だと言い返した。パトムワン警察署の留置場にはかつてこの医師によって子宝を授かった人たち、チュラロンコン大学の関係者が連日、激励に訪れているという。
タイ医師会では緊急の会議を招集(する予定)、来年度から医学部の教養課程に医師自身のメンタルケアを取り入れる方向で検討を開始したとか。
殺人の当日、夫は妻を食事に招待した、それは“OISHI”サイアム・ディスカバリー店だったとか、殺害現場と言われるソフィテル・ホテルはかつて不妊治療を受けた患者が感謝の記しに贈ったVIPカードでいつでも自由に使えるようになっていたとか、それにしてもこの切り口はそうそう真似のできるものじゃない、素晴らしいメスさばきだという法医学医師の感嘆の声等、周辺固めも怠りがないタイの新聞。
遂に骨発見!と思いきや妻のものとは違いましたという訳のわからない白骨死体まで新聞の一面を飾るご愛嬌も忘れちゃいない。
そしてここに来て、悪いのは妻のほうだったという擁護論まで飛び出した。新聞は彼女の高校以来の恋愛遍歴からお金を払わないと夫婦の営みもさせてもらえなかったという話まで悪妻ぶりを書きたてる始末。
新聞は連日飛ぶように売れ、タクシン首相のタイ航空機爆破事件なんてどこかに吹っ飛んでしまった。
猟奇的なバラバラ殺人、ハイソな人々がからんだ愛憎劇、トップエリートの逮捕といかにもタイの人々が好きそうな要素をふんだんに含んだ事件なのである。
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