いきさつ

八十八夜をあくる日に控えた駿河路は、まぶしい陽光につつまれていた。

新幹線を降りると、そのままタクシーに乗り継ぐ。

県立総合病院の緑が、輪郭も鮮やかに、能動的な生命力を輝かせていた。

「そうだな。いくとき、合図にラップ音を鳴らしてやるよ」

客歳早春から大腸癌に冒され、闘病と回復を繰り返し、四月に再発。
いよいよ余命五日ないし一週間と宣告された友人のナナケンは、
抗癌剤で土色に変色した顔を天井に向けたまま、
いつもと変わらない落ち着き払った口調で呟いていた。

それから十日後、予定より少し長く生きて、ナナケンは旅立った。

ラップ音は、聴こえなかった。



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